「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2021年1月21日 更新

#21

さよなら、有限会社。

脇坂肇

「有限会社」
この言葉、最近目にしなくなっていませんか。
かつては中小企業に多かった法人格です。
対して「株式会社」と社名についていると
ステータスといいますか、
社会的信用が高かったのは事実。
ただ、私はさほど法人格への
こだわりなんてありませんでした。
ところが、
令和元年に「有限会社脇坂工務店」から
「株式会社脇坂工務店」へと
会社は生まれ変わりました。
令和元年。
そうなんです、
この「わかる話」では
基本西暦表記にしているのですが、
今回は和暦表記です。
その理由は…。

私が会社を設立した平成6年当時、
「会社は株式会社に成り上がってナンボ!」
みたいな空気がありました。
特に私より一回りくらい上の経営者は
そう思う人たちが多かったので、
有限会社で会社を設立した私は、
諸先輩方から
「で、いつ株式(会社)にすんのよ?」
とチクチク言われていました。

先輩たちがそう言っていたのには訳があります。
当時の法律では、
「有限会社は資本金300万円以上」
「株式会社は資本金1000万円以上」
という条件があったんですね。
資本金っていうのは
(今はまた考え方が変わっていますが)
すごくざっくり言うと
会社の基礎体力みたいなもの。
だから
「自分の会社を株式会社に出来てこそ一人前」
という認識があったんです。
取引先や金融機関からの見られ方も
変わってきますからね。
生々しい話、金融機関から融資を受ける際、
「有限か、株式か」って重視されましたから。
脇坂工務店もどこかのタイミングで
資本金を800万円に増資しつつも、
特に株式会社を目指すことはありませんでした。
増資がいつだったか正確には覚えていないくらい、
私にはこだわりがなかったのです。

そうこうしているうちに、
平成18年に会社法というものが変わります。
資本金1円でも
株式会社が作れるようになると同時に、
有限会社という法人格を新たに作れなくなったのです。
よって、
有限会社と付いている会社=歴史がある会社
という見え方に変わっていったのですが、
私はそれもいいなと思って、
相変わらず有限会社のままでいくことにしました。

あれから月日は流れ、平成31年の冬。
20年以上という長きに渡って
お付き合いのあった経営者のAさんから
連絡がありました。
脇坂工務店は、
Aさんの会社の社屋、ご自宅、
息子さんのご自宅に至るまで
すべて建てさせてもらっており、
非常に良くしてくださっている方でした。

「もういい年だし、
この会社を息子に譲ることにしたよ」
とAさん。
だからといってリタイアするわけではなく、
こんな相談を私にしてきました。

「何か、別のビジネスをやりたいんだよね」

「え、まだ働くんですか!
(もう働かなくてもいいくらいの
退職金がきっとあるんじゃ…)」

「何か新しいことやりたくてさ。
そういえば脇坂さんって不動産やっていたよね。
ほら、収益物件への投資っていうの?
それ、教えてくれないかな」

私は脇坂工務店と並行して、
マンションやアパートを1棟まるごと購入して
そこから収益を得る不動産業も営んでいます。
何かの機会にAさんにその話をしていたので、
覚えていらっしゃったのでしょう。
長年お世話になっていることもあって、
二つ返事で引き受け、
僭越ながら色々と指南させてもらいました。

もちろん変な物件を
つかませるわけにはいきません。
「ここなら自分でもきっと買うな…!」
という物件を精査して
2軒ほど紹介したところ、
パッと購入されたAさん。
これをきっかけに
それまでは年2回ほど会う程度でしたが、
不動産のレクチャーをするために
会う回数が徐々に増えていきました。

新しい事業を始めたAさんですが、
かたや私も新しいことに挑戦しようとしていました。
既に持っていた
「一般建設業許可」からステップアップし、
「特定建設業許可」を取りたかったのです。
すごいざっくり言うと
「4000万円以上の工事を下請けに出すことができる」
ようになる許可です。
つまり規模の大きな工事をやる際に
「本当は」必要になる許可なんですね。

「本当は」って書いたのは現実問題、
住宅業界ではけっこうグレーゾーンな話でして…。
暗黙の了解というか、特定建設業許可がなくても
規模の大きな仕事をしているところが大半。
例えば、ほらあの会社も…
あれ…、わっ、何かパソコンの調子が…
gほあうおygaaoywykmopf

…すいません、今ちょっと見えない大きな力が
働いたようです。
や、他社はともかくですね、
おかげさまで脇坂工務店も
2億、3億という規模の建物を建てる機会が
増えてきたので、
いよいよちゃんと許可を取らなければと
考えていたわけです。

ちなみに、許可を取るまでは
どうしていたかと言うと、
私の後輩で特定建設業許可を持っているヤツ…
…じゃなかった持っている方に寿司を食わして…
…じゃなかったご馳走して差し上げて、
お歳暮とお中元を贈って、
頭を下げて弊社と一緒に
仕事をしてもらうことをお願いする、といった具合で。
まあ、めんどくさ…
…じゃなく相手にお手間を取らせるし、
自分で体制を整えなきゃと思っていたのです。
それにコンプライアンスを気にされる施主さんは
やはりそういう許可をちゃんと取っている
建設会社かどうか気にされます。
安心して脇坂工務店に頼んでもらうためにも
必要な許可でした。

平成31年3月。
Aさんと雑談している中で、
私はそんな特定建設業許可の話をしていました。
「ふーん、それってどうやったら許可が取れるの?」
とAさん。
「色々条件はあるんですが、
一番のハードルは自己資本が4000万円以上
っていうことですね。
うちのお財布事情的には
あと●000万円あればいいんですが」
と私が言ったところ
Aさんがポロリと一言、
「あ、そう。じゃあ、オレが出そうか」

「え?」

「投資として出すよ」

Aさんからの提案に驚きつつ、
まずは自分たちで持っているお金をかき集めました。
ヘソクリのブタの貯金箱を割るくらいの勢いで
かき集めました。
(あくまでかき集めた時のイメージです)

それをやった上で
不足分の●000万円を投資してもらうために、
決算書や個人としての確定申告の書類まで一式揃えて、
Aさんにとって出資するに足る会社なのかを
判断してもらったのです。
手持ちのお金がもう1円もないことを
Aさんにアピールするために
ポケットを裏返しておきました。
「まだ手持ちのお金、隠してるだろ!」
と言われたらジャンプするつもりでした。
あ、古いですか。

冗談はさておき、
自分に今でも問いかけることがあります。
「もし自分がAさんの立場だったとして、
お前はあんなに気持ちよく出資できるのか…?」
って。
いや、無理です。
ムリムリ。
長い付き合いの中で私の仕事ぶりや人柄を見た上で
「こいつは信用に足るやつだ」
と判断してくださったのだとしたら、
本当に嬉しい限りです。

というわけで、特定建設業許可を取るために
資本金を800万円から
4000万円にまでアップさせることになりました。
それすなわち有限会社から
株式会社になることを意味します。
そこでちょっと夢見がちな脇坂、
ロマンティック脇坂が顔を覗かせたんです。
「そうか、5月1日から元号が令和に変わるから、
4月末に申請すれば、
脇坂工務店は平成までは有限会社、
令和からは株式会社ってことになるな…。
時代とともに生きる会社ぽくていい…!
しかも株式会社に生まれ変わりつつ、
特定建設業許可だってある
きちんとした会社になっている!
完璧だ…!」

いや、これが失敗の始まりでした。

そんな下心?があった私は、
あえて時期を少し遅らせて
平成31年4月26日に
商号変更の申告をしました。
元号変わって、令和元年5月中頃には
「株式会社脇坂工務店」と記載された
会社謄本が無事に私の手元に到着。
特定建設業許可の申請をするべく、
それを携えて行政書士さんに相談したところ

「脇坂さん、決算報告書に記載の数字で
4000万円以上じゃないとダメですよ」

「え」

「脇坂さんの会社、3月末が決算ですよね。
つまり来年の令和2年3月時点の決算書をもとに
申請しないとダメですね」

「え」

「来年です」

「来年?」

「ええ、来年ですね」

えええええええええ!
ほら、この謄本に資本金4000万円ってあるし、
いいじゃん、いいじゃん!と
子どもばりに駄々をこねたんですが、
法律という全国民が守るべきルールの前では
私は完全に無力でした。

というわけで、
1年後、令和元年度(2020年3月)の
決算報告書には資本金4000万円と記載され、
晴れて令和2年7月15日、
特定建設業許可を取得。
もはや平成も令和もあまり関係ない
というオチと相成りました。

え、じゃあ株式になり、特定建設業許可も取って、
周囲の反応はどう変わったかって?

まず法人格が変わったことについてですが、
いまだに「有限会社脇坂工務店」という
宛名で年賀状が届きますね。
あ、私は別に全然怒ってもないし、
気を悪くもしていないのですが(本当です!)、
皆さん法人格って気にしていないんだなって、
思いました。
もちろん女の子にモテるようになったわけでも、
当然ありません。
代表取締役社長ではなく
CEOって名乗ると違うのでしょうか。
強いて言えば、
葬儀など社名を記した大きなお花を贈る機会に、
「株式会社脇坂工務店」という文字を目にして
「うちもちょっとは一人前の会社になれたのかも」
と思うくらいです。

あと、法人格を気にする人たちNo.1(脇坂調べ)だった
金融機関からは
「え、今時わざわざ有限から株式に変えたんですか?」
と驚かれる始末です。
もうそういう時代は過ぎたってことですね。
ちなみに、
AppleやGoogleのようなグローバル企業は
株式会社じゃなくて
合同会社で日本法人を作っています。
法人格による見え方うんぬんよりも、
合理的だから合同会社を選んでいるのでしょう。

特定建設業については、
ルールを普通に守っているだけなので、
「当たり前の状態」になっただけです。
安心して当社に
仕事を頼んで頂ける状況は整ったとは思います。
というか、
施主さんに迷惑をかける要素は
極力排除するのが自分の務めですからね。
いずれ私が次世代に
会社を譲る時がくるでしょうから、
それまでに
きちんとした形の会社にしておきたかった、
という気持ちもあります。

さて、勘がいい方はお気づきだと思いますが、
これでもう3億円、いや30億円の家を
建てたくなっても大丈夫です。
安心して脇坂工務店へご連絡ください…!
(もちろん3億円未満の家も喜んで!)

脇坂肇