「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2022年02月21日 更新

#34

マイホームは夢?

脇坂肇

私のつぶらな瞳が、
クワッと見開かれることが
最近増えました。
というか目ん玉が飛び出そうです。
それは…
それは…
札幌市内の土地の値段を目にする時です…。
中央区とかだと、
「え、ケタが間違っていませんか?」
と金額を二度見するような物件も増えています。
札幌の中心部で
マイホームを持つなんて夢のまた夢、
って言われても仕方ないですよね。
でも、ですよ。
どんな時でも必ず光はあるわけで。
そう、あの場所にこそ希望が…。
え。
ひょっとして、もう予想がつきましたか。
いや待って、言わないで。
せめて、オチは私に言わせてください。

私が本格的に不動産業に携わるようになってから、
十数年ほど経ちました。
なので、5年くらい前の札幌の土地相場は
おおよそ把握しております。
それと比べると、
もうね、今や信じられない金額で
土地が取引されているんですよ。

2021年に私が買いそびれた土地が
良い例でしょう。
それはいわゆる相続案件ってやつでして。
相続された方が年内に土地を処分したい!
来年の確定申告に間に合わせたい!
みたいな相談が背景にあったと記憶しています。
その土地とは、
東区で地下鉄徒歩圏内、約100坪という好条件。
3区画に分けて売り出せるほどの広さです。
乗り気になった私は、
土地のオーナーに査定書を出すことにしました。
査定書って文字通り土地の値段を査定して、
このくらいの値段で買いたいです、
と伝えるための書類。
周辺の土地の売買実績を踏まえて作っていきます。
で、調べてみると、
近くに坪60万円の実績が。
それを100坪に当てはめると…
60万円×100坪=6,000万円!
おいおいおいおいおいおいおいお〜い!
いやいや流石にちょっとその金額はないかな、と。
というのも、
8年ほど前に私が購入したアパートが
この物件の近くにあって、
当時の地価は坪35万円だったんです。
いくら高騰傾向だとはいえ、
せいぜい坪45万円が限界じゃないかなぁ…。
そんなことを考えました。

「そんなのポーンと買っちゃえばいいじゃん!
4,500万円と6,000万円なんて、
不動産業やる人からすると大差ないんじゃない?」
って言われそうですね。
いやいやいや。
建築条件をつけて販売して、
万が一反応が低調だった時には、
建築条件を外して売る可能性もあるんです。
そうなると建物を建てることでの利益がなくなります。
シビアに計算しないと、
トータルで赤字になっちゃうんですよね。

かくして私は坪45万円で査定書を作り、
仲介に入ってくれていた不動産屋に伝えたところ
「その金額だと無理じゃないかなぁ…」
という反応。
え、じゃあ私が仮に坪60万円で買って、
その後売れなかった時、
どうしてくれるんですかぁぁぁぁあぁああ!
と思いつつ、
大人なので口には出さないで、
静かに結果を待ちました。

結果、他の業者さんが
坪55〜57万円で買ったとのこと。
……。

で、でも、私はがっかりしません!
なぜなら、
そこには古い家が残っており、
解体費がかかることを知っていたからです。
「あらあら、素人が手を出しちゃったかなー。
解体費用にも600~700万円くらいかかる
ってことも知らずに、ご愁傷様だこと…!」
と完全にひがんでいました。
ええ、私も人間ですから。

しかし。 その後の顛末を聞くと、
買った人はすぐにハウスメーカーに転売。
最終的にハウスメーカーから売り出された際には、
坪65~70万円になったとか。
……。

買った人はがっちり利益を出したはずです。
まあ、私の読みが外れていたってことですね…。
ご愁傷さま、私です…。

ただ、ここまで上がると怖くて自分は買えないです。
(負け惜しみではなく!)
こんな調子で札幌市内中心部では、
地価が仕入れできないレベルになっていると
感じています。
土地がこんな金額だと、
家を建てる時の予算は5,000万円とかに…。
一般家庭じゃ、なかなか手が出ない金額ですよね。
ちょっと前までは目安予算が3,500万円だったのに、
あれよあれよと3,800万円、4,000万円、4,500万円と
どんどこアップしているんですよね。
加熱しています。
もう熱狂と言っても良いくらい。
でも、自分は熱狂には飛び込んでいかないんです。
意外と慎重なんですよ。
サンバカーニバルみたいな熱狂には
喜んで飛び込むのですが。

こうやって不動産の状況を書いていると、
アレを思い出す人も多いのかもしれません。
「バブル」ってやつです。

かつて、ことごとくバブルに
乗れなかった男としての
エピソードを披露していました。

1980年代後半のバブル期。
私は当時いた業界の特性もあって、
そこまでバブルの恩恵に預かったわけではありません。
ただ、そんな私でも、
世の中全体が浮かれていることは感じていました。
浮かれていると見られがちな私が
浮かれていると感じたのだから、
よほどだったのでしょう。
あの時は、金融機関主導で
バブルは膨らんでいきました。
担保さえあれば、どんなことでも
お金をホイホイ貸してくれたんですよね。

当時、不動産業に携わっていた先輩から
こんな逸話を聞いたことがあります。
ある土地が売りに出てて、
それを買う人がいました。
するとその取引の場に4人が列をなして、
待っているんです。
全員その土地を買う人なんです。
意味がわからないでしょ?
私も最初わかりませんでした。

つまり、こういうことです。
一人目の人物が土地を買います。
すると後ろにいる二人目の人に
その土地をすぐ売っちゃうんです。
次に二人目の人は、
その後ろにいる三人目にすぐ売って、
三人目は四人目にすぐ売って…
と今じゃ考えられないことが行われていたそうです。
1,000万円で買われたものが、
1,300万円、1,500万円、2,000万円と
すぐに転売されていく。
つまり数時間のうちに
価格が2倍、
下手したら3倍、4倍になっていくのです。
もうコントとか、
ファンタジーみたいですよね。
こんなことがまかり通っていたのは、
誰もが「土地の値段は下がらない」と思っていたから。
いわゆる土地神話ってやつですかね。

逆に、バブルが弾けた時は悲惨そのものです。
「逆ざや」と言って、
買った値段よりも安く売らなければならない
ケースが続出。
みるみる数百万円、数千万円の赤字に
なっていくわけです。
昨日までは逆に数百万、数千万円儲かると
思っていたものが一夜明けると…。
想像するだけでホラーですよ…。

じゃあ、昨今の状況、札幌界隈の地価高騰は
バブルかと言われると、
私は違うと思っています。
大きく言って理由は2つあります。

ひとつ目の理由は住宅ローン。
“40年もの”の商品が出てきたことです。
ちょっと説明しましょう。
まず前提として、
住宅ローンの貸し手である銀行は、
土地とか建物に対して、
担保としての評価をさほどしないんですって。
むしろ借りる人がどこに勤めてて、
どのくらい稼ぎがあって、
どのくらい月々返済できるか、
いわゆる「返済比率」を重視しているそうです。

私が最初の自宅を建てた1990年代当時は、
「自己資金20%で25年ローンを組む」のが
普通のパターンでした。
しかし、気づけば30年ローン、35年ローンという
商品が出てきていたんです。

たとえば3,000万円のローンを組むとして、
金利が1%だった場合の
シミュレーションをしてみましょうか。
25年ローンなら月々の返済額が11万3,000円、
35年ローンなら月8万4,000円、
40年ローンなら月7万5,000円
(すべて均等払い)
となってきます。
返済期間が長くなればなるほど、
月々の負担が減ることがわかりますよね。
「だったら、もっと借りよう!」
となるわけです。
資材関係の高騰や人件費の高騰とかで
建築費、ひいては総工費が上がっていますから。
この「借りられるお金の上昇」に比例して、
地価も上がっていると感じています。

バブルじゃないと考えるもうひとつの理由は、
「年金不安」ですね。
老後に不安を覚える人が、
アパートの収益物件を買うようになったからだと
私は睨んでいます。
いわゆる「スルガショック前」なら、
投資用アパートの購入に、
銀行はバンバンお金を貸してくれましたから。
それでどんどん物件が買われて、
それによって地価が上がっていった、
みたいな流れです。

というわけで、
かつてのバブルと現在の状況は違う
というのが私の見立てです。
あのバブルは実態や根拠が伴っていなかったですが、
今回は挙げたような理由が想定できますから。
あ、いけない、
ついプロっぽいところを見せてしまった。

ちなみに、
不動産価格がググッと上がると何が起きるか。
銀行から聞いた話ですが、
簡単に売る人が増えてくるんですって。
1回買った住宅を
3年以内で払い切る人が増えているそうです。
つまり、購入してから
月日がたたないうちに早々に売却し、
その金額でローンを完済しているってことですね。
服を変えるように、
売っちゃう感じだなぁと思いました。
車の残価設定ローンの感覚にも近いのかも。
「一生に一度の買い物」なんていう表現が
家にはありましたけど、
そんな価値観は変わってきていますよね、確実に。

ただ、この流れ、建築屋としては、
ある意味正しいと思っています。
だって、若い時の考えや価値観、趣味、
家族構成をもとに建てた家だとして、
そこに子どもが独り立ちした後の老夫婦が
ずっと住み続けるのってちょっと無理ありますよね。
そんなファミリー向けの大きさ、
二人暮らしには要らないのでは、ってことです。

家だって、建てた後の数十年の月日の中で、
確実に進化しています。
技術、断熱、ランニングコストの意識も
ガラッと変わっています。
光熱費をいかにかけずに
いかに快適な暮らしを叶えるか、みたいな。

というわけで、
年を重ねてから新しい家を建てることに、
私は賛成。
30代で建てた家を50代で売却して、
新しい場所で建てる、買うって
アリじゃないでしょうか。
これまで頑張ってきた年配の人が
古い機能の家に我慢して住んで、
かたや若い人が快適な最新の家に住むって
どうなの?って思っちゃいますし。

「そんな簡単に言うけどさ、
一般人には、家を買えない状況じゃん…」
という声が聞こえてきました。
待ってました。
この言葉を口にする時が来たようです。
言っても良いですか…?
あ、すぐ下に書いていますね。

「銭函にはまだ安い土地があるよ」
はい、これですよ、今日の結論は。
そうなんです。
数は少なくなってきているとはいえ、
銭函なら坪10万円を切る土地だって、
まだまだ出てきています。
最近、特に子育て世代から人気を集める
北広島、恵庭、江別などの札幌郊外。
そちらは土地の値段が上がっています。
一方、銭函はそこまで人が流れ込んでいないので、
土地も値上がりしていないんですね。

土地の値段が抑えられれば、
当然、建物にかけられるようになります。
もし総予算が3,500~4,000万円くらいなら、
建物に3,000万円とかをかけられることも
珍しくないでしょう。
そう、銭函ならね…!

ただ、一つ問題があって…。
いや、買い手にとっての問題ではなく、
私にとっての問題が。
あの人たちが銭函を狙っているんですよ。
ハウスメーカーという人たちが…。

ちょくちょく、
ハウスメーカーを名乗る人たちから
「銭函の土地、ないですかね?」
と問い合わせが当社にも結構あるんですよ。
お客様からの要望を受けて、
探しているんでしょうね。
だから、かなりの争奪戦になりつつあります。
ハウスメーカーからのTELには
「現在コノ電話ハ使ワレテオリマセン…」
と出るようにしています。

とは言え、
当社は長年このエリアで商売をしている身。
こんな銭函人気の中でも、
土地の売却や相談がまあまあ来ているんです。
そういう情報って全然表に出てこないですからね。
や、別に私が隠しているわけじゃないですよ、
イヤだな…ははは。

例えば、こんなことがありました。
当社のホームページに掲載していた銭函の土地。
金額はおよそ160万円です。
問い合わせてきた方がいたのですが、
別の土地を紹介したら、すぐにそちらで即決。
それが●00万円で駅近の土地だったから、
まあ当然の成り行きでした。
この話のポイントは、
後者の●00万円の土地の情報を、
ホームページに掲載していなかったことなんですよ…!
や、隠していたわけではなく、
そ、そう、掲載が間に合わなかったんです…!

「脇坂工務店は情報を握っている」
なんて噂が立ちそうですが、
正確に言うと、集まってきているんですね。
銭函で商売を続けて20年以上。
地主さん、町内会長さん、町の重鎮は皆さん、
ほぼほぼ知っていますから。
独自のネットワークを築いているってやつです。

上記の●00万円の土地も、
ローカルならではの、すごい展開から買った物件。
最初は当社がその隣の土地を買って、
測量作業していたんです。
すると、その様子を目にした
隣の土地の地主さんが、
「え、そっちの土地、脇坂さんが買ったの?
だったら、うちの土地も買ってよ!」
と言われたのがきっかけです。
なんか野菜とか魚をやりとりするみたいに
土地を買った感じが…。
これも銭函をベースにやっている
会社だからこそのこと。

ネット検索すれば、
ありとあらゆる情報が見つかる今。
当社しかない情報があるわけで。
これは、
G●ogleに脇坂工務店が勝ったとも言える…!
あ、言えないですね。
すいません、調子に乗りました。

で、2022年になってから決めたんですよ。
銭函の土地単体では売らないってことを。
持ち主から譲っていただいた土地があれば、
あくまでうちがプロデュースして、
建築計画を立てます。
それがそこそこ固まった状態でリリースする。
そんな方針を決めました。
あまりにもハウスメーカーの奴ら…
あ、ハウスメーカーの方々に
土地を取られてしまうので…。
あ、取られてはいないか。
譲っちゃうことが増えてきたので。

建築計画を立ててからリリースって
言いましたけど、
100%建売にするわけではありません。
家の構造の主要部分だけが決まっていて、
間取りや内装はまだまだ好みにアレンジできる状態で
売り出すことが多くなりそうです。
もし一から自分好みの家を建てたいのであれば、
早めに言ってもらえると、
何かしらのネタ(土地)や方法があると思いますよ。

というわけで、迎え撃つ策は万全。
さあ、ハウスメーカーよ、かかってこい!

や、ウソです。
かかってこなくていいです。
強がったけど、うちはまだまだ中小企業、
いや極小企業なんで。
ひっそりと闇に隠れて生きていきます。
え、
「脇坂工務店がハウスメーカーに
ケンカを売っているって告げ口されたくなかったら、
銭函の良い土地の情報を教えろ」
って…?
いやいや勘弁してくださいよ…。
ほら、ジャンプしても何も音がしないでしょ?
隠してないです、隠してないです。
小銭も土地もポケットに入ってないですから。

あ、例えがまた昭和ですか。

脇坂肇