「話のわかる工務店」がわかる話

お客さまとの話。職人との話。取引先との話。地域の話。お金の話。家づくりの参考になればと思い、「話のわかる工務店」がこれまで語って来なかった話をご紹介します。これで脇坂工務店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

脇坂肇

2020年12月17日 更新

#20

国土を広げてしまった。

脇坂肇

「あー、なんか最近土地が欲しい気分だなぁ」
とか
「次のトレンドは土地だと思うの。
この区分けのフォルムがたまらないわ!」
とか思ったことは…
まあ、ないですよね。
や、そういう趣味嗜好があってもいいのですが、
普通は土地ってそういうものじゃないわけで。
「今欲しいものランキング」とかで
上位にくるものでもないですし。
まず家を建てたいと考えて、
そこから土地を探すのが普通の順番。
そんな土地がらみの話として、
先日私は国土を広げました。
え、意味不明ですか。
私も「え?」って意味不明でした。

かつて、「先祖代々受け継いだ土地」とか
「親から相続した土地」とか
よく耳にしました。
誰もが愛着やら先祖への後ろめたさ
みたいなものがあって、
なかなか土地を手放さなかったものです。
しかし最近は、
デジタルの浸透やネットの普及のせいなのか
土地への愛着が希薄になっていると感じています。
家を建てるとか目的がない限りは、
土地を保有しておこうという人は少ないですよね。

かつての高度経済成長期には
「土地神話」みたいなものがあって、
土地って値上がりしていくことを
誰もが信じて疑わなかったんですよ。
私より少し上の世代のお金持っている人とかは
「脇坂くん、土地を買いたまえ、土地を」
と事あるごとにいう人も多かったです。
それくらい「不動の価値があって、良いもんだ!」
という固定観念があったわけで、
地主さんとか土地を持っている人は
滅多なことでは手放さなかったんですね。

で、今回の話の舞台も銭函です。
ここは歴史のある街なので、
「登記されてから一度も売買されていない土地」
なんてものも珍しくありません。
たとえば、当社の銭函オフィスが建っている土地。
銭函駅が目の前の超好立地です。
もともと土地を持っていた方は
先祖から引き継いで4代目だったとか。
かつてここで商店を営んでいたそうなんです。
ただ、5代目にあたる息子さんは
銭函には住んでおらず、
土地を相続されませんでした。
銭函は話題にはなっているエリアとはいえ、
外から見れば、まだまだ片田舎。
そんな土地を持っていても
仕方ないと思われたのかもしれません。
そこで脇坂工務店がこの場所を買わせて頂いたのが
2014年2月のことでした。
私からすると
「4代にわたって受け継いでこられた土地、
簡単には譲ってもらえないかな…」
と思いきや意外と手に入れることができたのです。
「ああ、これも時代の流れなのか」と思いましたね。

もう一つのケースです。
これまた銭函の駅近くにある土地を買ったのですが、
前の前の所有者の方は
1926年(大正15年!)にその土地を取得。
以来2009年に前の所有者
(私に土地を譲ってくださった方)が
相続されるまで
一度も所有者は移っていませんでした。
戦争の混乱も乗り越えて、
所有者が全く変わっていないのは
かなりのレアケースです。
どうも前の前の所有者の方が
「絶対に土地は売らん!」
というタイプだったらしいんですね。
だから銭函の古株の方からは
「脇坂さん、よくあの土地買えたね…!」
と言われました。
土地を持ち続ける慣習が薄れている
という流れがありつつも、
銭函という街で商売を続けてきた身だからこそ、
こうやって縁あってお取引できるんだな、
とも思います。

なお、その土地には建物が2つ建っています。
それは借地として土地を借りた上で建てられたもの。
昔はそういう家の建て方もあったんです。
ちょっと不思議な風習ですよね。
普通の不動産会社なら土地を最大限活用するために
お金を払うなりして居住者に立ち退いてもらったり
働きかけるのですが、
弊社はしません。
いくら登記上はうちの土地だとしても、
普通に考えると、
今住んでいる人にとっては
気持ち良い話ではないでしょうから。

といった感じで、
「古い土地」って権利関係が複雑だったりして、
一筋縄ではいかないんですよね。
売買には経験がモノを言うと思っています。
そうそう、
測量してみると3坪から5坪違う!
みたいなこともよくあります。
でも、あんな間違いがあるとは…。

ここからが本題です。
2019年の夏のことでした。
ある人から
「銭函の土地を買ってくれないか」
という相談が舞い込みました。
その人とは、
取引先の担当者の友人の親戚。
え、頭に入ってこないですか。
取引先の担当者の友人の親戚です。
まあ、初対面のお客様ってことです。
事情を聴けば、
その親戚の方はご高齢。
早いところ土地を処分したいという意向。
「売りに出したはいいけれど、
なかなか買い手がつかないんですよ。
でも、脇坂さんなら買えるでしょ、ね!ね!」
と取引先の担当者が話を持ってきたんです。
土地の押し売りってあるんだなって思いましたね…。

問題の土地は
銭函1丁目の住宅街にあって、
「なぜここに?」
と思うくらいの広さでした。
坪数にして、実に1347.6坪。
高台に位置しており、
その崖の下には鉄道が走っています。
土地にある林の隙間からは海が見え、
波音も聴こえます。
調査してみると、道路には面していて
電気水道は引けるから、住宅は建てられそうです。
ただ、区画的に、
小分けにして一戸建てをいくつか建てる
みたいな宅地にはなりません。
なかなか使い勝手が難しい土地です。
「うーん」と悩んでいたところ、
先方から
「●●●●万円のところ、
今ならなんと◆◆◆◆万円でいいから!」
とテレビショッピングばりの
ディスカウントが提示されたので、
ついハンコを押してしまったのです。
こんな調子で買う人がいるなら
土地ってテレビショッピングでも
売れそうです…。

ちなみに、プロぽいアドバイスをしておくと、
高齢者の方が土地の所有権を持っている場合、
けっこう困ったケースになる場合が多いんです。
というのも、司法書士立ち会いのもと
本人が売買の意志を表明できて、
署名捺印ができないと土地の売買は成立しません。
が、高齢になると
認知症を患う方が少なからずいるので、
その条件が満たせず土地が売れない、
という状況に陥ることも結構あるんです。
私はそんな事情も知っていましたので、
取引先の担当者の友人の方も困っている姿を
見過ごせず、つい買ってしまったわけです。
契約時はその親戚の方の
意識はちゃんとしていましたから。

で、1347.6坪の土地を取得したのですが、
そこに隣接している空き地が存在しました。
謄本には200坪ほどと記載があります。
ならばいっそのこと、そこも手に入れられないか。
私としても1347.6坪の土地に合わせて
より大きい方が「料理」のしがいがありますから。
そんなことを思って、謄本で持ち主をチェックし、
(公表されている情報なので)
その方宛にお手紙を書いたのです。

3週間後、私のケータイに着信がありました。
手紙を送った先の息子さんからでした。
謄本に記載のある持ち主の方は他界しており、
息子さんも土地を相続したことは知ってはいるけど、
どうすることもできない土地とのこと。
もし良ければ私にぜび買ってほしいという話でした。
もちろん、私は二つ返事で購入。

後日、土地家屋調査士に依頼して
その200坪の土地を測量してもらいました。
結果、はじき出された数字は536坪。
あれ?200坪でしょ。
と確認しても、測量士さんは
「いや、536坪ですよ」と。
はて…。

200坪と測量された当時の記録も残っていたので、
照らし合わせてみます。
地積測量図面上、
まあ、平たくいうとプロぽい図面では、
尺貫法というかつての尺寸法
(これも平たく言うとプロぽい尺度)で
測った数値をみると長さは合っています。
ただ、面積を出す計算が間違っている…。
おっと。
遠い昔の担当者、おっちょこちょいすぎますね。
よって、彼(彼女)の計算ミスによって、
336坪ほど、日本の国土が広がった計算になります。
謄本上ですが。
よって、トータル1883.6坪を取得と相なったわけです。
336坪も広くなるなんて!
計算ミス、ありがとう…!

が、賢明な皆さんはお気づきかもしれません。
実は私、土地を手に入れた時点でノープランでした。
まだコロナ前の2019年のことだったので、
「外国人の富裕層とか
別荘建てるのに買ってくれないかな〜」
くらいに思っていました。
2020年の私からしたら呑気なものです…。

土地の買い手を探すために
まず入札を行いました。
が、不調に終わり、買い手が見つかりません…。
次に全国規模で情報を公開して、
買い手を募ったところ、
アメリカ人や日本人の富豪とか何名かが
現地まで視察にいらっしゃいました。
でも、皆さん首を縦に振りません。

ええ、原因はわかっていました。
林が立っていて、海への眺望が遮られるのが
大きな原因です。
購入を検討中のお客さまが視察に来たのは夏場のこと。
生命力たっぷりの木々が
「オラオラ!これが北海道の大自然が育んだ
立派な木だぜ!葉っぱだぜ!」
という感じでわさわさと生えているものだから、
ほぼ海が見えません。
ええ、視察しているお客さまの心の声は
聴こえていました。
「銭函なのに海が見えないのか…。
しかも波音だけは無駄に聴こえるじゃないか…。
むしろ海が見たくなるじゃないか…」
と。
私は必死に
「ほら、動体視力のいい人なら、
葉っぱが風にゆれる瞬間にちゃんと海が見えますよ!
もしくは目を細めてみるとか!」
と主張しようかと思ったのですが、
明らかに逆効果なので諦めました。
ちなみに、冬になってわかったのは
葉っぱが落ちるとけっこう海が見えるということです。
冬にご案内すれば良かった。
いや、ダメか。

銭函なのに海が見えないのは、
尻尾のないタイ焼き、
お年玉のない正月、
チョコレートのないバレンタイン
みたいなものです。
しかし眺望を遮っている木々は
JRが所有している土地に生えているので
勝手に切れません。
おぅ…。
ひょっとして、
計算ミスをしでかしたのは私だったのか…。

が、そうこうしているうちに
コロナのせいで世界がこんな状況に陥っていきました。
テレワークや在宅へのシフトが進み始め、
さらにはキャンプやアウトドアブームも到来。
そこで脇坂、ひらめきました。
この広さ、この自然環境、
ファミリー向けの賃貸テラスハウスを建てれば
いいんじゃないか!

イメージは「キャンプ場が併設した住まい」です。
10世帯が入居できるくらいのサイズ感。
建て方を工夫して、
すべて角部屋になるようにします。
そうすれば生活音のストレスも
軽減できることでしょう。
むしろ聴こえるのは波の音です。
土地は広いので、当然間取りはゆったりと。
かさばるキャンプ道具なんかも
楽々しまえるように収納はたっぷり設けます。
敷地内にはBBQできるスペースや、
家庭菜園が楽しめるスペースも作りましょう。
さらには、友人たちが遊びに来たら、
ゲストルーム代わりに
敷地内にテントを張って
泊まってもらえるようにすればいい!

というわけで、
土地は別の会社に買ってもらい、
脇坂工務店で上記の企画を立てて、
設計士と打ち合わせをスタートさせました。
建物も不動産もやっているから、
こんな土地の活用をひらめいたんだとは思います。
ただ、ビジネスとして成立するように
ソロバンをパチパチ弾きながらも、
私が大事にしているのは面白いかどうか。
だって、ただ儲けることだけを考えていったら
他社とやることが似てきますし、
お客さまにも響かないですよね。
まあ、問題としては、
面白い企画だとついつい私が調子にのって
お金かけすぎてしまうのですが…。

竣工予定は2022年の予定。
いやー楽しみです。
海への眺望を遮っていた木々に感謝しないと。

脇坂肇